2006年04月22日

3年の夏学期スタート。「パテント」って「開く」っていう意味だったんだ

法科大学院3年生の夏学期が始まりました。いよいよ最終学年です。早いなあ。今学期は必修科目がなく(選択必修は少しありますが)、全て自分の興味で選べる科目ばかり。興味深い科目がたくさんあったので色々と悩んだのですが、結局、知財、租税、金融、あたりが中心となる科目選択をしました。いずれも結構重たそうなので、コマ数はあまり多すぎないようにして、ある程度集中してやっていこうかと思います。で、早速知財関係の本を少し読んでみたら「へぇ〜」という感じのものがあったので、そのあたりも少しご紹介しようかと。 
 今学期履修登録をした科目は、知的財産法+知的財産法ゼミ、租税法+「租税と諸法」という名のゼミ的クラス、上級商法2金融+金融法(前者が金融取引の私法的側面、後者が金融のレギュレーション関連)、公法訴訟システム(憲法訴訟+行政訴訟を見ていく)、ビジネス・プランニング、現代中国法、で、合計週11コマ。他にも取りたい科目はたくさんあったのですが、過度の消化不良となっては授業を受けた意味もないし、冬学期にも取ってみたい科目がたくさんあったので(大学院のルールで3年次に履修できる最大コマ数は22コマ)、結局2年生の冬学期で経験したのと同じコマ数に抑えた次第です。(学生の中には、夏学期のうちに出来るだけたくさんの単位を取っておき、冬学期は新司法試験の準備に当てるため必要最低限の必修科目だけで卒業できるようにしようとしている人達がかなりの割合でいるように思います。これはちょうど1年くらい前に「突飛で無謀な挑戦」の中で指摘していた心配が一部現実化している感じです。学生の置かれた立場からすれば仕方のない部分が小さくないと思うのですが、学生にとっても学校にとっても、制度全体の関係者にとっても、もっと大げさに言えば日本社会全体にとっても非常に勿体ない話しだと思います。)

 既に授業が始まって2週間が経ちましたが、どの科目もとても興味深いものばかりで、これから随分と楽しめそうです。金融法の授業では、取りあえずのイントロということで、江戸時代からバブル崩壊までの日本の金融制度の変遷を岩原教授がコンパクトに解説してくれました。コマーシャル・バンキングとインベストメント・バンキングの違い、第二次大戦後に日本銀行が構築を目指した金融制度の枠組み、高度成長が終わった後からバブル崩壊にかけて従来の銀行システムが壊れていく流れ、など、何となく知ってるつもりでいたけれど自分の口ではとてもまともな説明が出来ないなあと思われたような基本的でとても重要なポイントを非常に分かりやすく説明してもらえて、「あ〜、そういうことだったのか」と、頭がとてもスッキリした気分でした。(日銀時代から今までにかけての自分の不勉強さを改めて痛感させられたわけでもありますが。)

 また、今までは最低でも50人の比較的大きなクラスでの授業ばかりでしたが、今学期からは知財ゼミをはじめとして、20人前後くらいの少人数の授業がいくつかあるのも楽しみです。現役の大学生だったときもゼミというのは一度も参加したことがなかったので(そもそも普通の授業すら年に数えるほどしか出席していなかったわけですが)、今回がまさに生まれて初めての経験ということになります。

 ところで、このゼミをとることになった知的財産について、これまでインターネット関連の仕事などでも色々と関わりがあったはずなのですが、まじめに勉強してみたことが全然ありませんでした。そこで、学期が始まるに当たって、何冊かの本をパラパラと読んでみました。いくつかお薦めできそうな本があったのでご紹介しようと思います。

 一つめは、知的財産法の分野の大御所ともいえる中山信弘教授の「マルチメディアと著作権」。大学生協の教科書売り場で本を物色しているときに、ちょうど近くにいた学部時代に中山ゼミをとっていたクラスメートに「知財関係でザッと簡単に読める入門書的なものはないか」と聞いてみたところ薦められたのがこの本でした。しかしこの本が書かれたのは1996年。いかに良い本とはいっても10年前のマルチメディアと今のマルチメディアでは全然世界が違うからちょっと使えないんじゃないかなあと思い、その場では購入しませんでした。でもちょっと気になったので、大学の図書館で探して借りて読んでみたという次第です。で、エラい先生というのはやっぱりすごいんですね。10年前に書かれたとは思えないくらい、マルチメディアの進展に関する中山先生の洞察はとても的確だったんだなあという感じです。そして、この本の主題はマルチメディアの普及に伴って著作権法がどのように変わっていくべきかというようなことが中心なのですが、その前提として一章をさいて書かれている著作権や知的財産という概念に関する基本的な説明が素晴らしいと感じました。この説明部分は新書で80ページくらいと大変コンパクトですが、知的財産法が何のために作られてきたのかということが、とてもよく分かる気がしました。マルチメディアやITに興味を持つ人が、著作権って何?と思ったときに気楽にサラッと読んでみるのにはとてもお勧めできる本だと思います。

 二つめは、「クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権」。上記の「マルチメディアと著作権」を図書館で探していたところ、ちょうどその隣に置いてあったので発見し、早速借りて読んでみた次第です。以前紹介したローレンス・レッシグ教授が推進しているクリエイティブ・コモンズという活動を解説するための本ですが、著作権法の基礎理論について日本の弁護士が解説しているパートなどもあり、インターネットに興味があって著作権についても少し知識を得たいという人には取っつきやすくて効率のよい本ではないかと思います。もともと色んな人達の文章の寄せ集めであり、レッシグ教授の講演の日本語訳もやや読みにくいものだったりするので、本としてすっごくオススメという訳ではないですが、少なくとも図書館などで手に取ることが出来るなら、ザッと目を通してみても損はないんじゃないでしょうか。椙山敬士弁護士が担当している「第4章 コモンズのための著作権法の基礎理論」は、ミレーの「種まく人」とゴッホの「種まく人」に始まってファイルローグ事件に至るまで様々な具体例を紹介しながら著作権とは何かを分かりやすく、興味深く説明してくれています。また、クリエイティブ・コモンズよりも早く「dマーク」という仕組みを提唱しレッシグ教授の考えにも影響を与えたとされる林紘一郎教授が担当している「第5章 デジタル創作物と電子的権利制御」は、著作物の創作がデジタル的な手段に移行することで著作権保護にどのような変容が求められるべきかということについて、とても説得的に論述されています。

 上記二つの本は、いずれも突き詰めていえば「これからは著作権保護を強化するだけでは世の中のためにならないんだ」ということを主張し、あるべき著作権保護の方向性を提唱しているものといえそうです。「著作権の保護を強化すればするほど文化の発展に寄与するものではないし、また著作権を否定しさえすれば情報流通が促進されるというものではない。創作へのインセンティブ確保と情報利用の促進という二つの相対立する要請を満足する二次方程式の解が求められることになる」(「マルチメディアと著作権」105ページ)というあたりが根本的な視点で、林教授も「情報の円滑な流通論」を基本的な方向性に置きつつ、著作権制度を剛構造から柔構造に転換し、さらに法で予め規定するだけではなくシステム間競争を導入することによってあるべき制度の模索を進めていくべきである(「クリエイティブ・コモンズ―デジタル時代の知的財産権」153ページ)と提唱しています。

 で、オススメの本の三つ目は、竹田和彦弁護士の「特許の知識 [第8版]」です。知的財産法の授業の一回目で実務にも役立つ貴重な参考書として紹介された本で、600ページ弱の分厚い本ですが、生協でパラパラと立ち読みしたところ、法律の解説本としては親しみやすい文体で、具体例に則してとても丁寧に解説されているイメージだったので購入してみました。まだ初めの方をちょっとかじっただけですが、なかなか面白そうです。
 この本の冒頭、「特許制度の誕生」というセクションの中の「へぇ〜」っと思えた箇所をちょっと引用します。「ちなみに、特許は各国においてパテント(patent)と称される。実は、パテントには特許を示唆するような意味は本来全くない。これはイギリス中世の国王の発する公開文書である開封特許状 Literae Patentes すなわち Letters Patent に由来し、patent はラテン語の patentes(開くの意)に相当する。patentが開示(disclosure)の意味を持っているのは、特許制度の公開の意義から見て興味深い。・・・かくして、特許制度の存在する根本的理由は、新しい技術を社会に公表する代償として独占権を与えて技術を保護し、同時に他の発明を刺激して(catalyze other inventions)、社会全体の技術のレベルを引き上げていくところにある。つまり、特許制度は、人間の創造力を刺激する制度であり、これを特許の触媒作用と表現することが出来る。米国商務省庁舎(旧特許庁庁舎)の正面入り口には、リンカーンの次の言葉が刻まれている。『特許制度は、天才という炎に、興味という燃料を添加した』(The patent system added the fuel of interest to the fire of genius.)」(「特許の知識」4ページ)
 これは、上記の著作権の変容のところにもつながりますが、要は、知的財産権の保護は知的創造物が社会に公開され流通され利用されることによって、さらなる知的創造物の発展に活かされていくという側面がとても重要であるということのようですね。知的財産権というと発明や著作物を一種の財産として保護し、それを元にしてきちんとお金を稼ぐことが出来るようにするためのものだ、と何となく思いこんでいただけの僕としては、「目から鱗」的な印象を受けた次第です。上記のリンカーンの言葉も以前にどこかで目にしたことがあるように思うのですが、その時も、特許制度のお陰で発明が莫大な儲けを生み出す可能性を持つので、それによって天才の発明に燃料が注がれているのだ、というような意味だと勝手に解釈していたような気がします。お恥ずかしい限り。

 大学時代に全く勉強をせず、その後も本を読んだり思索に耽ったりなんていうこととは全然無縁の生活を送っていた自分の無教養を恥じるばかりですが、それにしても世の中には、何となく知っているつもりでもその本質を全然分かっていなかったということがとてもたくさんあるんだなあと感じさせられている今日この頃なわけです。今学期も頑張って、大学院の授業を楽しみたいと思います。
posted by Takao at 22:47| Comment(1) | Law
この記事へのコメント
以下のジョーイ(伊藤穣一氏)のブログで、クリエイティブコモンズを解説したテレビ番組(デジタルガレージプロデュース・中野裕之さん監修)の映像を見ることが出来ます。

Joi Ito's Web - JP: 初めてのMXTVのビデオ
<a href="http://joi.ito.com/jp/archives/2006/04/29/004239.html">http://joi.ito.com/jp/archives/2006/04/29/004239.html</a>

この映像自身がクリエイティブコモンズの「帰属」ライセンスとなっているので、みんなで勝手に remix してもらって構わないということのようです。ご参考まで。
Posted by takao at 2006年06月03日 12:15