2004年02月24日

封建制が最も理想的な統治形態であるという考え

ナンバ走り」の項で、日本が近代化の中で忘れてしまってきたものがあるという話題に触れましたが、その文脈で、ある人に「当然読んでおくべき本」として紹介された内村鑑三の「代表的日本人」という本を読みました。知っている人は非常に多いだろうと思うのですが、恥ずかしながら教養のない僕はこの本の存在すら知りませんでした。西郷隆盛など5人の代表的な日本人の生き方を英文で記述することで日本を世界に紹介したこの本は1908年に刊行され、当時諸外国に大きな影響を与えたそうです。背景を聞くだけですぐにも手に取りたくなる本ですが、実際読んでみても実に面白いです。特に「上杉鷹山」という江戸時代の藩主を紹介する文章が僕には印象的でした。その中に、「封建制が完璧な形態をとれば、これ以上理想的な政治形態はない」という内村の考えが出てきます。 色んな翻訳本が出版されていますが、僕が今回読んだのは「対訳・代表的日本人 Representative Men of Japan」(内村鑑三著、稲森和夫監訳、講談社、2002年10月)です。明治時代の内村鑑三が世界に日本を紹介する時にどんな英文を使っていたのかにも興味があり、「対訳」にしてみました。といっても実はまだ英語の方はほとんど読めていなくて、取りあえず日本語の部分だけしか読んでいないのですが、日本語部分だけであれば、さらっと数時間で読めてしまう程度の分量です。
 紹介されているのは、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人、の5人です。いずれも名前は聞いたことがある人達なのですが、これらの人達が人としてどのような暮らし方・生き方をしてきた人物なのかということについては自分が全く知らなかったのだということを、この簡潔な本を読むことで痛感させられました。先日ある人が、「アメリカやイギリスには大人が読むための偉人の伝記本がたくさん出版され、書店の店頭にもそれ専用のコーナーが備えられているのが一般的であるのに、日本では子供向け以外には偉人の伝記というものがすっかり姿を消しており、これは悲しむべきことだ」と言っておられました。確かにそうですね。偉人がなした業績を歴史で勉強するのも大事ですが、自分と同じ一人の人間が、どのような背景でどのような考えを持つようになり、どのような努力を通じて物事を成し遂げていったのかということを、伝記を読むことで疑似体験するというのは、本質に少しでも近づいていくためにとても重要なことですね。生身の人間の物語として語られることで、歴史上の出来事が初めて現実感を伴って実感できるようになる部分は大きいと思います。
 この本で紹介された5人の中で、僕にとって最も印象的だったのは上杉鷹山です。江戸時代の殿様にもすごい人がいたんですね。この上杉鷹山を紹介する中で「封建制が完璧な形態をとれば、これ以上理想的な政治形態はない」と内村は言っています。いかにも敬虔なクリスチャンらしい説明がされているのですが、曰く、仕えるべき「わが」君主と、慈しむべき「わが」家臣、という形で治める者と治められる者の関係が人間的な性質を持ち、「愛の律法」で統治されるところに封建制の強みが発揮されると言います。「立憲制」というような「制度」を持ち込むと、君主はただの治者になり、家臣はただの人民となって、もはや忠義はあり得ない。憲法で定められた権利を求めて争いが生じ、争いを収めるのには文書に頼ろうとし、もはや昔のように心に頼ろうとはしない、と。この辺のところは二宮尊徳の項でも似たような概念が紹介されています。確かにそうですね。突然「封建制が理想だ」と言われるとあまりに唐突で違和感を覚えてしまう訳ですが、確かに、本当に仕えたいと思う立派な君主がいて、その君主が正しく臣民を慈しんでくれるとしたら、これほど安定的で平和な世の中は無いかも知れません。体育会系で育ち、尊敬すべき先輩や師匠に忠義を尽くすことにもともと結構居心地の良さを感じてしまう方である僕としては(こういう性向が良いものかどうかはまた別問題ですが)、非常に納得できる考えで、かつ今まであまりストレートに考えたことがない主張だったので、とても新鮮でした。
 そうは言っても現実の社会では、とんでもない君主がとんでもない不幸を社会にもたらすことが頻発する訳で、人間社会はそれを乗り越えるための様々な工夫を色々な場所で色んな形で行い続けています。ところが、かつて東洋の小国日本の片隅に、まさに理想的な封建君主の典型例といえるべき人物がいたということで、本書で紹介されているのが上杉鷹山です。かのケネディ大統領はこの上杉鷹山を心から尊敬していると、よく演説で話していたそうです。多くの日本人が忘れ去ってしまっていたこの人物のことを、ケネディ大統領はこの内村鑑三の著書を読むことで知っていたそうです。 因みに、映画「ラスト・サムライ」で有名になったあの「武士道」という著書で、日本の精神を世界に英文で紹介した新渡戸稲造は、札幌農学校で内村鑑三の同期生だったそうです。実は、「対訳・武士道」という本も今回合わせて購入しました。早く読んでみたいと思っているところです。
posted by Takao at 15:08| Comment(0) | Books
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